原発の一時国有化による全原発廃炉政策(私案)

報告・案内

2019.10.10  菅 直人(衆議院議員)

<はじめに>

1998年、バブル崩壊で起きた銀行の連鎖倒産の際に、自民党小渕政権が「ブリッジバンク法案」という中途半端な銀行救済法案を出したのに対し、当時私が代表を務めていた野党民主党が「銀行の一時国有化」を内容とする金融再生法を提出し、小渕総理に丸呑みさせ、金融危機を乗り切ったことがあります。その時金融再生法など政策づくりの中心となったのが現立憲民主党代表の枝野幸男氏をはじめ与野党の若手議員で、マスコミは「政策新人類」と呼びました。原発ゼロの実現にもう一度「一時国有化」という手法が有効ではないかと考えて骨子をまとめました。

<原発ゼロ基本法案>

立憲民主党はすでに「原発ゼロ基本法案」を策定し、昨年野党4党で国会に提出しています。この法案では法施行後2年以内に、全ての原発を廃炉にする具体的な段取りを決める実施法を制定することにしています。そこで日本のすべての原発を廃炉にする実施法について「原発の一時国有化による全原発廃炉政策」を検討してみました。参考にしたのはイギリスが国営電力を民営化した際に、原子力廃止措置機関(NDA)を設立し、古い原発はそこに移して順次廃炉にした方法です。

<一時国有化するメリット>

電力会社にとってこれまで原発は電力を発生させ、その電力を売ることで利益を生み出す大きな資産でした。国の方針としてすべての原発を再稼働させずに順次廃炉にすることを決めると、原発は資産価値がなくなるだけでなく廃炉費用を必要とする債務になります。このため電力会社は発生する債務処理の見通しがないまま原発の廃炉を決断することが極めてむずかしく、将来性がないことが分かっていても踏み切れません。

そこで、原発の廃炉に先立って全原発を一時国有化し、国の責任で廃炉をすすめることで電力会社の経営上の懸念を軽くすることを考えました。つまり原発建設費用の償却・原発廃炉費用などをあらかじめ検証して試算する。廃炉費用もこれまでに各電力会社が積み立てた資金で足りるのか足りないのか。不足するならどの程度なのかを試算する必要があります。電力会社が当初予定した稼働期間よりも短い期間で廃炉にするため、建設費の償却や廃炉費用について相当の不足分が出る可能性があります。

現在、原発を所有する各電力会社は再稼働を実現するため、新規制基準を達成しようと膨大な設備投資をすすめています。関電の例がその一つです。いったん全原発の廃炉を決めればそうした費用は不要になります。その点からもできるだけ早く具体的な廃炉の段取りを示すことが重要です。

<国の責任>

原発事業はもともと国の責任ですすめられた面が大きいので、原発からの撤退においても国が責任主体にならなければ実現しません。国民に資金の不足がどのくらいになるのか詳細を明らかにしたうえで、電力会社の自主努力を中心にそれでも不足する場合には国の責任で廃炉費用の不足分を補うことも考える必要が出てきます。

その場合、各電力会社が全国に所有する膨大な送電網を売却して廃炉費用に充てることを検討すべきです。安倍政権が2020年に実施を検討している発送電分離は従来の地域独占の9電力会社の持つ送電部門を子会社化する中途半端な「法的分離」です。これでは従来の地域独占の9電力会社が送電についての実権を握りつづけ、再エネ発電業者など新電力の新規参入が阻害され自由に事業を拡大できません。

そこでドイツやスペインなどですでに行われているように、現在の電力会社とは全く別会社として全国的に送電を担う新たな送電会社を設立し、従来の電力会社各社が所有している送電網を全部新送電会社に売却する「所有権分離」を実施するのです。新送電会社は発電事業をしないので再エネ発電中心の新電力会社と従来の電力会社を公平に扱うことが担保され、電力自由化の観点からも重要です。

東電や関電など従来の電力会社が現在所有する送電網には膨大な資産価値があります。発送電の分離に伴ってそれら全国の送電網を新送電会社に売却し、その売却資金を原発廃炉にともなう電力会社の資金の不足分に充当することが可能です。そうした電力会社による自主努力を精一杯したうえで、それでも不足する場合には十分な国民的議論のうえで、国民の理解を得て国による財政措置が必要になります。国民の負担が大きくならないようなさらなる工夫が必要です。

<2021年までにめどをつける>

2021年には福島原発事故から10年となります。ドイツはすでに2022年までの原発ゼロを決めて準備をすすめています。日本でも急ぐべきです。全原発の廃炉が決まれば不要になる再稼働のための莫大な投資を早くやめさせるためにも、遅くとも2021年までには原発ゼロ基本法案につづく全原発の「廃炉実施法」を成立させ、原発ゼロへの道筋を決めるべきです。

与党自民党がそうした方向にかじを切らないのであれば次期総選挙で政権を交代し、原発ゼロ法案につづく廃炉実施法を成立させ、2021年から廃炉の具体的作業に入ることが原発事故の心配のない日本列島にするためにも日本経済の活性化にとっても望ましい道だと考えます。

皆さんのご検討とご理解をお願いいたします。

 

PDFファイル

メニュー