東日本大震災と福島原発事故から満10年にあたって

東日本大震災と東京電力福島第一原発事故から満10年を迎えました。地震や津波によって亡くなられた皆様に改めて心からご冥福をお祈りします。また、大切な方を失った皆様、そして原発事故で被災され、今なお故郷へ戻ることができない皆様に、心からお見舞いを申し上げます。
原発事故では、避難の過程で、多くのご病気やお年寄りの方が亡くなられました。避難指示を出した当時の総理として、今も大きな責任を感じています。これからも震災と原発事故の時の総理として、被災地の復興と被災者の皆様への支援に、しっかり取り組む覚悟です。

多くの皆様が「あの日」の記憶を、鮮明にお持ちのことと思います。私も、国会審議中に感じた突然の揺れ、そしてそこからの最初の1週間のことは、今も決して頭を離れることはありません。震災翌日のヘリ視察で目の当たりにした、想像を絶するほどの津波被害。東京電力から十分な情報を得られないまま、刻一刻と深刻さを増す原発の状況。もし原発事故があのまま収束できなかったら、最悪の場合、東京を含む半径250km圏内、約5千万人の避難を強いられる可能性がありました。文字通り日本が壊滅することになりかねない、瀬戸際の事態だったのです。
最悪の事態に至らずにすんだのは、福島第一原発の吉田昌郎所長をはじめ、現場の作業員の皆様による命がけの事故対応のおかげです。私はあの時、彼らに生命の危機が生じることを承知の上で、東電の原発からの撤退を阻止しました。今振り返っても、人生で最も重く、つらい決断でした。しかし、彼らはまさに全身全霊をかけて、日本を壊滅の危機から守り通してくれました。吉田所長をはじめとする現場の皆様に、この場を借りて改めて心からの感謝と敬意を表したいと思います。

そして国民の皆様にも、原発事故の深刻さについて、改めて思い起こしていただきたいと思います。一歩間違えば日本が壊滅しかねない事故であったことを。そして、福島県をはじめとする多くの皆様から、住み慣れた故郷を半永久的に奪ってしまったことを。どんなに「発電コストが安い」と言われても、これほど大きなリスクをはらむ原発を使い続けることを、私は決して認めることはできません。
原発は安全対策にかかるコストが増え、以前のように発電コストの安い発電方法ではありません。また、太陽光をはじめとする再生可能エネルギーは、原発事故後に普及が拡大し、それに伴い発電コストも大幅に下がっています。経済的にも、原発を使い続ける選択肢がなくなっていることは、もはや常識となっています。
また、このブログでもたびたびご紹介している営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)などの方法を使えば、今や日本で使う電力のすべてを再生可能エネルギーで賄うことも、決して夢ではありません。あの震災と原発事故から10年で、エネルギーをめぐる環境は大きく変わっているのです。
そのことをご理解いただいた上で、原発を必要としない社会の実現に向けて、すべての国民の皆様の力を結集していただきたいと思います。私も、残された政治家人生のすべてをかけて、その実現に向け全力を尽くします。

2021年3月11日

菅 直人

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