政府の情報公開と薬害エイズ事件

安倍政権になって、政府の情報隠しが極めてひどくなっていると、多くの皆さんが感じていると思います。「桜を見る会」の招待者名簿などの資料について、内閣府は何度となく「廃棄した」と繰り返していますが、そんなことはない、と断言できます。かつて厚相として薬害エイズ事件に取り組んだ経験からすると、重要な資料を官僚が自ら廃棄することは、まずあり得ません。

当時のことを少し詳しく説明します。
薬害エイズ事件とは、血友病の治療のために使われていた非加熱製剤にエイズウイルスが混入していたことから、多くの血友病患者がエイズに感染して亡くなった事件のことです。非加熱製剤の原料として米国から買ってきた血液に、エイズ患者の血液が混入していたために起きた悲劇でした。厚生省(当時)や製薬会社は「患者さんには気の毒な事をしたが、当時はエイズの原因がまだよく分かっていなかった。責任はない」という態度でした。
しかしその時、厚生省はすでに非加熱製剤の危険性を認識していました。血友病治療の権威だった安部英・帝京大学教授を中心とする研究班の調査で、血友病患者へのエイズ感染が判明していたのです。しかし厚生省は、その後も非加熱製剤を使い続けることを容認し、そのため被害が拡大してしまいました。
この問題はやがて訴訟になりましたが、厚生省の官僚は、歴代の大臣が研究班に関する資料の提出を求めても「確認できません」とその存在を否定し続けました。非加熱製剤を販売していた製薬会社の社長は、厚生省OBの天下り。「役所の先輩」に責任が及ぶのを避けたかったのでしょう。一部のマスコミが資料の存在を突き止めて報道しましたが、それでも厚生省は資料の存在を認めなかったのです。

私は厚生大臣に就任する前からこの問題に取り組んでいたので、就任早々、厚生省に調査委員会を作ろうとしました。すると、当時の事務次官が私のところに来て「大臣が知りたいことは何でもお知らせします。『調査委員会』といった正式な組織を作るのは勘弁してほしい」と泣きついてきたのです。私は「私が個人的に知りたいと言っているのではない。国民の多くがおかしいと感じているのだから、きちんとした調査委員会を作って調査するように」と言った上で、調査対象者や調査項目を文書にして官僚に指示しました。
調査委員会ができて10日ほどが過ぎたある日、厚生省の薬務局長が「資料が見つかりました」と言ってきました。資料を読んでみると、時間を追って血友病患者の中からエイズ感染者が増えていく状況が、詳しく記録されていました。「資料はどこで見つかったのか」と尋ねると「薬務局のロッカーの中」だというのです。その後もさらに調査を続けると、省内のいろいろな部署から、40冊を超える資料のファイルが見つかりました。
つまり、関係者は資料があることを知っていた。厚生省の官僚や、製薬会社に天下っているOBの責任が問われるのを免れるために「資料はない」と嘘を言い続けていたのです。私はこのことを忘れることはできません。

薬害エイズ事件での資料隠しは、官僚が自身の責任を問われることを避けるために起きたことですが、安倍政権による資料隠しは、安倍晋三総理ら政治家が、自分たちの責任を追及されないように官僚に忖度させて隠しているわけです。国民を代表して官僚を監督する側の政治家が、自らの責任が問われるのを免れるために、結果として官僚に資料隠しをやらせている。これは、薬害エイズ事件より一層悪質な問題だと思っています。

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