自殺者の減少と「よりそいホットライン」
民主党が政権を失って1カ月後の2013年1月17日、警察庁は、2012年の自殺者数が前年より2,885人減って2万7,766人となり、15年ぶりに3万人を下回ったと発表しました。年間の自殺者数は、1998年に初めて3万人を超え、その後も高止まりの状態が続いていたのですが、民主党が政権交代の直後から自殺対策に精力的に取り組んできた結果、自殺者の数は年間約1,000人のペースで減っていき、ついに3万人を下回ったのです。もちろん、多くの方が自ら命を絶っていることは間違いなく、これを政権の成果として簡単に喜ぶことはできませんが、それでも小さな一歩にはなったのではないでしょうか。
2009年に民主党の鳩山政権が発足した時、自殺者は年間3万2,000人を超えていました。民主党はこれを「社会全体の問題」としてとらえ、内閣府に「自殺対策緊急戦略チーム」を発足させました。警察庁から毎月「どの地域で、どういう理由で、何人が亡くなったか」というデータを毎月出してもらい、データを内閣府で分析。都道府県や市町村とも情報を共有し、自殺対策に取り組んでもらいました。ちなみに自民党政権時代は、警察庁からのデータ提供は年1回だったそうです。
警察庁が市区町村別の年代ごとの自殺理由などの詳細を公表するようになったのも、政権交代の一つの成果でしょう。これにより地域ごとに自殺の背景が一様ではないことが明確になり、自治体も対策を打ちやすくなったと思います。
鳩山総理の後を受けて総理に就任した私は、「社会的孤立」を政権の大きな課題と位置づけました。自殺の背景には、人々が家族や地域社会から切り離された「孤立化」の問題があると考えたのです。総理就任後の所信表明演説では、このように語りました。
「人は誰しも独りでは生きていけません。悩み、くじけ、倒れたときに、寄り添ってくれる人がいるからこそ、再び立ち上がれるのです。我が国では、かつて、家族や地域社会、そして企業による支えが、そうした機能を担ってきました。それが急速に失われる中で、社会的排除や格差が増大しています。(中略)支え合いのネットワークから誰一人として排除されることのない社会、すなわち『一人ひとりを包摂する社会』の実現を目指します」
2011年1月に、政府内に「一人ひとりを包摂する社会」特命チームを設置。座長は福山哲郎官房副長官、内閣府参与として政権に加わっていただいていたNPO法人「自殺対策支援センターライフリンク」代表の清水康之さん、年越し派遣村の村長として活躍していた「反・貧困ネットワーク」事務局長の湯浅誠さんのお二人に、座長代理になっていただきました。メンバーには、当時文部科学省の官房総括審議官だった前川喜平さん(元文部科学事務次官)も名を連ねていました。また、民主党内にも「社会的包摂プロジェクトチーム」を立ち上げました。
ところが、取り組みが始まった直後、東日本大震災が発生したのです。
発生当初は震災と原発事故の対応に追われましたが、事態が一定の落ち着きを見せ始めると、私は被災地をはじめとして全国に「社会的孤立」のリスクが高まる可能性があると気づきました。5月にまとめた「社会的包摂政策を進めるための基本的考え方」に「誰も排除しない社会の構築を目指した全国的な推進体制の構築の第一歩」として「電話相談(コールセンター)」事業の検討を盛り込みました。
これが、この年の秋に創設された「よりそいホットライン」につながりました。400以上の団体と連携し、全国で1,800人以上の相談員の方々のご協力を得て、24時間さまざまな相談を受け付けるようにしました。ホットラインには創設当初から、1日3万件もの電話がかかってきたといいます。
野田政権では2012年8月に「自殺総合対策大綱」を閣議決定しました。「一人ひとりがかけがえのない個人として尊重され、誰も自殺に追い込まれることのない社会の実現を目指す」ことをうたいました。児童・生徒の自殺が起きた場合の詳細な実態把握やいじめ問題への対処を指導、ゲートキーパーの養成促進、大規模災害における被災者の心のケアなど、多岐にわたる対策が盛り込まれました。また、直接的な自殺対策ではありませんが、求職者支援制度や雇用保険の規制緩和、障がい者支援の新制度、子ども手当、高校授業料無償化など、生きづらさを軽減するための多くの政策も、自殺を減らすことに寄与したのではないかと考えます。
民主党政権で大幅に減少した自殺者ですが、大変残念なことに、2020年の自殺者数は2万1,081人と、11年ぶりに増加に転じてしまいました。厚労省は新型コロナウイルスの感染拡大が影響したのではないかとみているようです。特に女性や若い世代の自殺が増えているそうです。今つらい思いを抱えている方、生きづらさを感じている方、どうか迷わず下記まで電話してください。SNSなどでの相談も受け付けています。
0120-279-338(岩手・宮城・福島県からは0120-279-226)
よりそいホットライン https://www.since2011.net/yorisoi/